【ポケモン】キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

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【ポケモン】キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!|ポケタイム@ポケモン総合まとめサイト

1: 名無しさん
スシなる神秘
3: 名無しさん
 その答えは、単為生殖という珍しい現象にある。サカナや爬虫類、鳥で稀に見られる、本来有性生殖をするはずの生物が、オスとメスの接合なしにメスのみで子を為すというものである。
 単為生殖が発生する理由はよくわからない。好条件下では単為生殖を繰り返して個体数を増やしておくという種もあれば、身近にオスがいなくとも血筋を絶やさないために単為生殖を発生させる種もあるが、このシャリタツの場合前者はあり得ない。このシャリタツは人に飼われているのだが、経緯はどうあれこんな寒風吹き荒ぶ倉庫の隅で初めての産卵を迎えようとしているあたり、事情は察されよう。日中はその小さな体と決して強くない力であらゆる家事をやらされ、そのくせ食事は極めて質素なものに制限され、ポケモンでありながら技は飼い主──ヌシの趣味のため「はねる」「こらえる」「かたくなる」の三つのみ。
4: 名無しさん
いわゆる「奴隷スシ」になるため養殖場で誕生させられ、本当の親の顔も知らない。ごく幼いうちに飼い主の家へと迎え入れられ様々な「調教」を経てシャリタツらしい傲慢さや自尊心を打ち砕かれた、惨めな生命。この家の敷地から出ることもできない、仮に出られてもとても野生でなんか生きてはいけないのだ。
「ス……シィ、オレノ、タマ……オレノオシュシ……」
 しかし、そんな奴隷スシであるこのシャリタツにもわかっていた。子を授かるような本能的な行為は今まで一度もしたことがないけれど、今我が身から生まれ落ちようとしているのは、きっととても小さくてこの上なく愛おしい、自らの輝く希望なのだと。先祖代々の本来の生息地である広大な湖から引き離され、野生のシャリタツとはまるで異なる生き物にされてしまい、一日中家事労働に従事してヌシの気分次第では打たれ吊るされ蹴られ踏まれる地獄のような日々の中、シャリタツに生きる意味と活力と同族の仲間を与えてくれるのだ。
5: 名無しさん
「シャー……リー……オイデ、デテオイデ……」
 母が絶対に守ってあげる。あなただけは地獄の中に過ごさせたりはしない。大切に大切に、密かに育て上げて、誰にも知られぬよう広い世界へと解き放ってあげる。だから──。
「ズ……ッジャアァァァァ!」
 秘裂の内側の粘膜が一瞬ひっくり返ったのではないかという感覚があって、むにっと押し出された卵、シャリタツ曰く「タマ」が汚いブランケットの上に転がり落ちた。シャリタツの胎内の分泌液に塗れたタマには砂埃が汚らしくくっつきまくったが、シャリタツはくたびれた体を息も絶え絶えに起こし、ヒレでタマを抱き寄せて粘っこい分泌液と砂埃を拭き取った。
6: 名無しさん
ラッシャイ
7: 名無しさん
「シャリィ……タマ……!オシュシ……!キュウゥゥ……♡」
 まだ動きもしない小さなタマが愛おしくて仕方がない。シャリタツは目尻に涙を浮かべながらタマに頬擦りする。
秘裂はまだヒリヒリと痛むし、ただでさえ一日の労働で疲れ切っていた体は鉛のように重いけど、タマの状態でもこんなに可愛いオシュシをこうしてヒレの中に抱くことができたのだから些末なことだ。睡眠を取れる時間はあと僅かしかないが、このタマ、オシュシを守るために強く生き抜こうと決意し、シャリタツは破れた壁の穴から星が瞬く夜空を見上げるのだった。
8: 名無しさん
「ちょっと、スシ!まだ皿洗い終わってないの?今日は一段とトロわね!さっさと済ませて早く洗車してよ!午後から出かけるんだからね!」
「ス、スシッ!ショーチ!」
 スシと呼ばれたシャリタツは、産卵のためほとんど休めなかった体に鞭打って必死で働いていた。物置きに産み落とした可愛い可愛いタマが気になって仕方ないが、日中寝床に戻ったりしてヌシにバレてしまうと何をされるかわからないので、いつも通りに振る舞うしかない。
 小さなシャリタツにとって、皿洗いは全身運動だ。洗剤をつけたスポンジを両ヒレに持ち、まるで床拭きでもするかのように全身を使って油や食べかすがこびりついた食器をゴシゴシと擦る。洗剤で荒れてしまい、ヒレの先はいつも鱗がないし、乾燥してカサカサになっている。洗剤と汚れを水で洗い流した食器を持ち、水切りカゴとシンクの中を往復。この時に食器を落としたりでもすれば大目玉だ。
9: 名無しさん
やっと皿洗いを終えると洗車だが、これは皿洗い以上の大仕事。何せ面積が食器と比べ物にならないほど大きいし、高さもある。よたよたとホースを引っ張ってきて車全体の汚れを落としてから洗車用の大きなスポンジで磨き上げる。せめて「みずてっぽう」でも使えれば作業はもう少し楽なのだろうが、持ち技は前述の通りだし、まずヌシがシャリタツが体から噴射する水で愛車を洗うことを許可するわけがない。
 洗剤を使う作業は薄い鱗に覆われただけの弱い肌が痛めつけられて普段から辛いものだが、今日は腹に洗剤がつくとタマが出てきたあたりが染みて一層痛みを感じる。しかし、逆にその痛みはシャリタツがたったひとりでこの世に可愛いタマを誕生させたのだという誇らしい事実の証明であり、痛くはあっても苦しいとは思わなかった。
10: 名無しさん
 なんとかヌシが出かけるまでに洗車を終え、ヌシを見送ってもシャリタツに安息は訪れない。部屋中の埃を落とし、ゴミを集めて家の裏手のゴミ置き場に運び、床を磨き上げ、風呂掃除とトイレ掃除を終えれば、最後にシャリタツ自身を清潔にしておかなければならない。今日のノルマを達成するとすっかり夜だった。美味しいレストランで食事を済ませたヌシが帰宅すると、ヌシの風呂が終わるのを待って肩揉みのマッサージで奉仕する。シャリタツが清潔でなくてはならないのは、ヌシが汚いヒレで体に触られたくないからだ。それが終われば一日の仕事はようやく終わり。これらの仕事を、シャリタツはほぼ休憩なしで一日二回、朝と晩だけ与えられる食事だけでこなしている。ちなみに朝食はいつ買ったのかわからないポケモンフーズを少し、夜は一日で出た残飯の寄せ集めだ。さらに家事の合間に「ヌシのストレス発散」という業務が挟まることがあるが、幸運なことに今日はそれがなかった。
11: 名無しさん
だから、ヌシが夕飯を外で済ませてきたために残飯ですら碌なものがなく、バナナの皮でかさ増しされたふやけた白米と何かのサカナ(おそらくは食用の同族)の皮が混ざったものだったとしても、文句は言えない。「もういいからさっさと行って」
「スシッ!ヌシ、オヤスミー」
 シャリタツの方を見もせずに手でしっしと追い払う仕草をするヌシに挨拶をして、シャリタツは玄関横の奴隷スシ用出入り口からヌシの部屋を抜け出して物置きへと急いだ。今日も夜の空気は冷えていて、タマのことが心配で堪らない。壁の穴から物置きの中に滑り込み、雑に折り畳んだブランケットをめくると──今朝シャリタツが置いたままの状態でタマはそこに鎮座していた。
「アア、オレノタマ……オレノオシュシ……アイタカッタ……」
 シャリタツはヒレでタマを抱き、さらに添い寝するように尾をくるんと巻いた。
ブランケットの下がほんのりと温かい。日が昇りきる前に寝床を出たら日が沈むまでそこに戻れないシャリタツにとって、日中タマをどうやって温めるかは非常に大きな問題だった。しかし数日前、使用期限が切れたから処分しておくようにと言ってヌシから示された使い捨てカイロの山が救世主となった。
12: 名無しさん
ヌシにとって使い捨てカイロは、明るい時間帯でも寒い時期の外出の際に使うものだった。夜寝る時などは低温やけどのおそれがあるため、使わない。日中は暖かくなってきた昨今で、しかも使用期限切れのカイロなど、ヌシにはもう不要なものだったのだ。その頃には自らの腹の中にタマがあることを確信していたシャリタツは、言いつけ通り使い捨てカイロを一旦は裏庭のゴミ箱の中に運んでおき、ヌシが出掛けた隙に物置きに近い植え込みの影などに隠しておいて、一日の仕事が終わって寝床に帰る前に回収するのを繰り返し、なんとか十数個をこの倉庫まで運んだのだった。今朝早く、寝床を出る前に使い捨てカイロを開封して物置きの地べたに置き、その上にブランケットをかけてタマを乗せ、さらにブランケットを折り返してタマにかけておく。
13: 名無しさん
温度が低すぎたり高すぎたりしないか不安は大きかったが、こうするより他になかった。幸いにもタマには変わった様子はなく、カイロでの抱卵初日は成功のようだ。
 安心するとどっと一日の疲れが出て、シャリタツは自らのヒレでタマを抱きしめたまま、まだ温かいブランケットの上に横たわった。この家に連れてこられて以来、こんなに幸福な気持ちになったことはない。確かな生命を感じるタマにそっと尾を寄せて、シャリタツはすぐに深い眠りに落ちた。
14: 名無しさん
 カイロ抱卵五日目の夜である。
「ス……スシ……ィ」
 その日、全身打撲痕やら擦り傷やらでボロボロのシャリタツは、普段の倍ほどに腫れて動かすこともままならないしっぽを文字通り引きずり、必死の思いで物置へ戻ってきた。今日のヌシは機嫌が悪かった。理由はシャリタツにはわからない。ただとにかく朝から全ての家事を訳もなく急かされた。食器洗いでシンクと水切りカゴの往復に息を切らしていたら、トロすぎると言ってキッチンから叩き落とされた。洗車を終えると、シャリタツが退避しきらないうちに車が動き出し、しっぽを轢かれてしまった。
「ヌシッ、マッテマッテ!オレマダココイル……ズッ!ギューーーー!!イダ、イダ、イダイイィィ!!」
 多分、ヌシはシャリタツがまだ車の近くにいるとわかっていてわざとやったのだと思う。とっさに「かたくなる」の要領で身を守ったが、しっぽのひどい内出血と骨折は免れなかった。そのままヌシは出かけてしまったので、運がよければ投げて寄越してもらえることもある傷薬すらもらえず、しっぽを激しく損傷したまま残りの家事をこなすのは地獄だった。
15: 名無しさん
シャリタツのしっぽは陸上を移動する際にも体を前に進ませるのに大きな役割を果たしているが、そのしっぽが全く機能しない。だからといって家事ができない、ヌシが帰ってくるまでに終わらない──なんてことは許されるはずがない。しっぽを使わず両ヒレだけで移動し、小さなシャリタツにとってはあまりにも広い人間の家の中全ての床を磨き上げ、風呂を洗い、トイレ掃除まで漕ぎ着けたはいいが、しっぽが使えないせいで体のバランスを崩し、便器の中の溜まり水に頭から突っ込んでしまった。
「ズブブブ」
 元々は水棲生物だから溺れることはないが、便器の中に臭気発散防止のために溜まっている水など清潔なはずがない。その水を少し飲んでしまっただけでも泣きたかったが、ほぼ全身をその水に浸けてしまったので一刻も早く体を洗いたい。それでなくとも夜にまたヌシのマッサージをするのに備えて体は清潔にしておかなければならないのですぐに便器から這い出してシャワールームへと急いだが、体がトイレの溜まり水でずぶ濡れだったのでシャリタツが移動した跡も水滴だらけ。
16: 名無しさん
その部分の掃除もやり直しになってしまった。
どうにか一日のノルマを終えたが、骨折した部分から発熱し、朦朧としたままヌシを出迎える。いつものようにまっすぐ風呂へ向かうかと思いきや、ここでも「ヌシのストレス発散」業務開始だった。
「スシ、『こらえる』」
「キュ、キュウッ……!」
 その技の名だけでこれから何が行われるのか予想がついてしまう。しかしヌシがはっきりと命じた技を拒否することは、ヌシの低レベルなポケモンであるシャリタツには不可能だ。命令通り「こらえる」を発動させると、ヌシは赤黒く腫れて元の黄色い体色がすっかりわからなくなったしっぽを両手で掴み、シャリタツを持ち上げた。
「ズジャアァァァ!!ヌジッ、シッポイタイ!オレノシッポ、ケガシテル!」
「だから何!」
 ヌシはしっぽを両手で掴んだままシャリタツの体をテニスのバックハンドをするように一度後方に振り、それから勢いよく前方の壁に叩きつけた。
17: 名無しさん
「ギュベッ!」
 バン!とシャリタツの体が壁に激しく叩きつけられる。その衝撃もなかなかのものだが、何より折れて腫れ上がったしっぽを起点に体が振られるのが痛くてたまらない。失神しそうな痛みだが、「こらえる」を発動しているため意識ははっきりしたままだ。いっそ気を失えた方がましかもしれないのに。
 さらに二度、三度、四度目まで壁に叩きつけられた後、シャリタツは無造作に床に放り投げられた。
「シャリィ……」
 床に這いつくばり、ぴくぴくと両ヒレを動かすのがやっとのシャリタツ。
「はー、まあまあすっきり。今日はもういいわ」
「ス、スシィ……ヌシ、オヤズ……ビーーーー!!」
 やっと解放されると思った瞬間、真上からヌシの足がずどんと落ちてきて這いつくばるシャリタツの背にめり込む。シャリタツは、のびたすがたがそったすがたに近くなるほど体を跳ねさせた。ヌシはようやく本当に満足したのか、軽快な足取りで風呂へ向かっていった。
 ヌシの気が変わらぬうちにとヌシが風呂から出てくるより前に、ボロボロの体で物置になんとか戻ってきた。こんな状態なので、今夜はぐずぐずの残飯ですら食べられなかった。
18: 名無しさん
動いているのが不思議なほど痛めつけられた体で、雑に折りたたんだブランケットをめくる。そこには、今朝のままのタマがあった。
「シャリィ……タマ、オレノタマ……アア、カワイ-……」
 ヌシの機嫌ひとつで理不尽に扱われ、大怪我までしていても、この可愛いタマがあるだけでこの世界も捨てたものではないと、まだまだ希望があると感じられる。ぎゅっと抱きしめていると、全身の痛みすら薄れるようだった。
「オシュシー……カワイイオシュシー……ギュー……」
 とそのとき、ヒレの中に抱きしめたタマが、ことん……と小さく揺れ動いた。
「エ、タマ……?」
 揺れはことこと……と続き、そしてタマの上部にピキッとヒビが入った。
「シャ、シャリィ……!」
 ついにその時が来たのだとシャリタツは感じた。こんなに厳しい状況で、それでもたったひとりで産み落とした執念のタマ、大事な大事な希望が今、この世に生を受けようとしている。
「オシュシ……オシュシ!スシハココ!オイデ、オイデー!」
 パリパリ、とタマ上部が完全に砕け、そして。
19: 名無しさん
「オレ、シュシー!」
 母となったシャリタツと同じ黄色──ではない、ツヤのあるオレンジ色の小さな小さな子シャリタツ、待ち望んでいたオシュシが、ヒレをいっぱいに伸ばして元気よく殻から飛び出してきた。
「オ……オシュシ……?オレノ……⁉︎」
「キュー……?」
 オシュシは初めて見る母の顔を、いっぱいに涙を溜めた目を、首を精一杯上に向けて見つめ続けている。
「キュキュー!シュシー♡」
 母シャリタツの体長の半分もない生まれたてのオシュシは、母の腹に自らのぷりぷりとした丸っこいヒレで抱きつき、体を擦り寄せた。小さな小さなハート型の可愛らしいしっぽがぴちぴちと揺れている。
「ア……アア……オシュシ、カワイイ……アイタカッタ……!」
 丸いぷくぷくの頬をすりすりと擦り付けてくるオシュシ。全身オレンジ色で、小さな背には黄色い横線が何本か入っている。全身黄色いシャリタツ自身とは似ても似付かぬ姿だが、その可愛らしさの前にはそんなの些細なこと。横線が入った小さな背にシャリタツは両ヒレを回してきゅっと抱きしめ、ついにポロポロと涙を溢した。
20: 名無しさん
「キュー、オミジュー!」
 頭上にポタポタと落ちてくる母の涙を、オシュシは水だ水だと無邪気に喜ぶ。この世に憂いがあることなんて知らないオシュシのただただ清らかな笑顔を、なんとしても守り抜くとシャリタツは誓ったのだった。
 オシュシが無事に孵化したのはいいが、今度はオシュシの安全と食事の確保がシャリタツにとって大きな課題となった。日が昇る頃にはヌシの家へ行き、暗くなるまで物置に帰れないシャリタツは気が気でなかった。好奇心旺盛な幼いオシュシが迂闊に外を出歩けばどうなることか。この家の敷地で最も恐るべきはヌシだが、野生の鳥ポケモンや肉食の獣型のポケモンが敷地に入ってこないともかぎらない。シャリタツは、オシュシが大きくなったら必ず広い外の世界に連れて行ってあげるから、今は絶対母がいない時に外に出てはいけないと何度も言い含め、背ビレを引かれる思いで物置を出た。
 ヌシの家に入ってすぐにようやく傷薬を投げて寄越されたシャリタツは、ヌシが身支度しながら見ているテレビのニュースから、今夜は強い雨が降るらしいという情報を頭に入れつつ、折れていたしっぽを十分ではないまでも回復させ、今日も奴隷労働に勤しむ。
21: 名無しさん
家事をしている間、それとなく外の様子に耳をそば立ててみたが、特に変わった様子はない。おそらくオシュシは言いつけ通り物置で過ごしているのだろう。となると、今日の次の問題はオシュシの食事だ。ただでさえ質素で、どちらかと言うとゴミのようなシャリタツの餌をこっそり持ち帰り分け与えるぐらいでは、育ち盛りのオシュシを守れない。追加で何か食べるものが必要だったが、そもそも今日食うにも事欠くシャリタツが、一日中かかる家事をこなしつつ十分な食糧を得る方法。どれだけ考えても、ヌシの家にある食糧を少し失敬する以外なかった。狙うのは、ヌシの食べ物ではないポケモンフーズが入った袋だ。シャリタツが朝の餌としてヌシから毎日少量ずつ貰うものだが、シャリタツに与えた後に袋が納戸にしまわれていることは知っている。あの袋から少しずつ取り出してオシュシに与えるのが、今のところ一番バレにくいように思えた。
22: 名無しさん
 ヌシが出かけると行動開始だ。スライド式のドアにヒレをねじ込み隙間を空け、体を滑りませると、案外すぐそこにポケモンフーズの袋はあった。折り畳まれた袋の口を留めているクリップを外し、喉袋と顎の間に三粒、左右のヒレの下に二粒ずつ挟み込んで一旦納戸を出て、玄関横の奴隷スシ用出入り口から屋外へ出た。ヒレの動きを制限されながらも、計七粒を落とさないよう物置へと急ぐ。これまで日中に物置に戻ったことなどなかったが、今はやむを得ない。空腹で待つオシュシを満たしてやるのが最優先だ。
「オシュシッ!メシー!」
 大急ぎで物置にたどり着いたシャリタツは、おとなしくブランケットの上で丸まっていたオシュシの前にバラバラとポケモンフーズを落とした。
「ヌッ?メシー!」
 くんくんと匂いを嗅いだオシュシは、これは食べ物だと瞬時に判断して小さな口でポリポリと齧り始めた。茶色っぽいカリカリの固い塊を見て、その匂いと母の言葉だけですぐに栄養のある食べ物だと判断できるなんて、うちのオシュシはなんて賢いんだろう、とたったそれだけのことでシャリタツは本気で誇らしい気持ちになった。
23: 名無しさん
「ウマ!ウマー!」
 ニコニコしながら食べ進める食欲旺盛なオシュシをずっと見ていたかったが、そうはいかない。
「オシュシー、オレモドル!タベトケ!」
「ングング、シュシシュシ!」
 口を動かしながらピコピコとヒレを振ってくれたオシュシを残し、シャリタツは放置してきた納戸へと急ぎ戻る。途中、あることを思い出したシャリタツは裏庭のゴミ箱に突っ込まれていたトマトソースの空き缶を引っ張り出し、ゴミ箱の横に並べておく。納戸へ戻ると再び身を滑り込ませ、ポケモンフーズの袋を元の状態に戻し、ドアをきっちり閉めておけば、これでひとまず安心だろう。あとはいつも通り、ヌシが帰ってくるまでに家事を終わらせるだけだ。今日は「ヌシのストレス発散」業務が発生しないことだけを祈る。
 そんなシャリタツのささやかな祈りが届いた夜、シャリタツは速やかにヌシの部屋を出た。今朝の天気予報の通り、雨はすでに降り出している。裏庭のゴミ箱に寄ると、シャリタツの狙い通り空き缶には既に数センチの雨水が溜まっていた。シャリタツは中の水をこぼさないよう慎重に空き缶を引きずり、しかし急いで物置へと向かった。
24: 名無しさん
いつも出入りしている壁の穴に辛うじて通すことができた空き缶と共に物置の中へ入ると、可愛い小さなオシュシが母の顔を見て歓喜の声を上げた。
「キュー!キュー!」
 目一杯首を上に向けて、くりくりとしたつぶらな瞳をキラキラさせているオシュシ。昼間に運んだポケモンフーズは完食したようだ。しっぽの先のハート型が上下にぴこぴこと元気に動き続け、全身で母の帰宅を喜んでいる。
「オシュシー♡タダイマ♡」
 両ヒレでぎゅっと抱きしめると、オシュシも短いヒレでシャリタツの胴に抱きついてきた。小さくぷにぷにの喉袋がシャリタツの腹に当たる。もう少し日にちが経ったら、この喉袋の使い方──シャリタツとして生きていくのにとても大切な、擬態の仕方も話してあげなくては。シャリタツ自身はその生い立ちから擬態をしたことも喉袋を使ったこともほとんどないが、ヌシが見ていたテレビに擬態を披露するシャリタツが映し出されているのを見て、衝撃を受けたことがある。
25: 名無しさん
そして体の奥から湧き出てきたのだ、この喉袋──シャリを立派に膨らませてその上にピンと伸ばした体を横たえる擬態姿は、奴隷スシとなる過程であらゆる大切なものを失ってきたシャリタツにとっても、魂に刻まれた唯一の誇り高き行動であるという意識が。
「オシュシ、オミジュ!アゲル!」
 シャリタツは一旦オシュシから体を離すと、自慢の知能を使って得た雨水入りの空き缶をオシュシの前に差し出した。
「キュキュ!オミジュ、オミジュ!」
 オシュシをヒレで抱き上げて、深さのある缶の中の雨水に体を浸してやる。小さな体は缶にすっぽりと収まり、オシュシはキュッキュッとはしゃぎながら水を飲んだり全身が湿るように動き回ったり、気持ちよさそうだった。その愛おしい姿と言ったら。シャリタツはすっかりとろけた笑顔でオシュシの様子に見入っていた。この可愛いオシュシがいるのなら、どんなに過酷な毎日だってへっちゃらな気がした。
「サッ、オシュシ!ネンネスル!」
「シュシ!ネンネー!」
 缶の中からオシュシが両ヒレを伸ばしてきた。ああ、なんて可愛いんだろう。シャリタツも両ヒレで抱き上げてやる。
26: 名無しさん
しっとりと水気を含んだオシュシの瑞々しい体は、ぷるぷるとして本当に美しい。こんなに愛らしいシャリタツはこの世に他に存在しないに違いない。他のシャリタツなんて見たことがない母シャリタツだが、本気でそう思った。外はまだ雨が降り続いている。明日以降の水も確保しておくため、シャリタツは空き缶を物置の外に押し出しておいた。
 ぽたぽたと空き缶に水が溜まっていく音を聞きながら、シャリタツ親子は汚いブランケットの上に丸まった。水遊びをたくさんしたオシュシは疲れたのか、すぐにスシー……スシー……と寝息を立て始めた。安心し切った、無邪気な寝顔。愛おしくて仕方がない。なんて幸せな時間なんだろう。労働に疲れ切ったシャリタツも、可愛いオシュシの寝顔をずっと見ていたいと名残惜しく思いながらも、眠気に抗えず瞳を閉じる。こんなに穏やかな時間が毎日訪れますように。そう願い、シャリタツも眠りについた。
27: 名無しさん
 しかし、「その時」は突然訪れた。オシュシが孵化して、まだ五日目のことだった。
「ギャーーッ!なに、この虫!」
 シャリタツがいつものようにシンクと水切りカゴの往復で皿洗いをしていると、廊下の方からヌシの悲鳴が聞こえた。なにやら虫が出たらしい。虫の退治自体は大抵ヌシ自身でやってしまうのだが、死骸の片付けはシャリタツの仕事だ。ただ、ヌシが尋常でない悲鳴を上げているのに奴隷スシがすぐに駆けつけないとなると、後からひどい折檻されるに決まっている。
 シャリタツは濡れた体をボロボロのシャリタツ用布巾でさっと拭くと、ペタペタと廊下へ駆けつける。そこで見たものは──。
「アッ!」
「キュー?」
 ヌシの言う「虫」──それは、今朝物置で、今日もここから動かないでと言い含めて別れた可愛い可愛いオシュシに他ならなかった。つやつやとしたオレンジ色の小さな体のオシュシは、首を目一杯上に向け、くりくりのつぶらな瞳で、仁王立ちのヌシを見上げていた。警戒心はまるでなく、初めて見る自分より遥かに大きな生き物に興味津々のようだ。好奇心旺盛なあの子が、一日中薄暗い物置のブランケットの上で過ごしておけるはずがないのだ。
28: 名無しさん
母がいつも出入りしている壁の穴から顔を出してみたら、初めて見るものがたくさんあったことだろう。そのままオシュシは好奇心に従って物置を出てしまい、母が残したわずかな匂いを頼りにヌシの家の中まで入り込んでしまったらしい。シャリタツには背を向ける状態で顔が見えないヌシの手には、丸めた新聞紙が握りしめられていて──。
「気持ち悪ぅ!こんな虫初めて見た!」
「ヌシッ、ダメッ、ヤメテェッ、オネガ、アーーーー!!」
 シャリタツが慟哭するのと、ヌシが「虫」に向かって振り下ろした新聞紙がパァン!と廊下の床にぶち当たって音を立てるのはほぼ同時だった。
「ギュビイィィィィィ!!」
「オシュッ、オシュシーー!!イ゛ヤ゛ア゛ァァァァァ!!」
 新聞紙が退けられると、オシュシは廊下にへばりつき、半分潰れた体から何かわからない汁を滲ませていた。
「ア゛……」
 ぴくぴくと体をわずかに振るわせ、蚊の鳴くような声を上げるオシュシ。顔はこちらを向いている。あのつぶらで可愛い宝石のようなお目々は片方が飛び出していて──残った片方の視線が、シャリタツの眼差しと交錯した。
29: 名無しさん
「ジャリ゛ィ」
「オシュ……」
「うっわ、まだ生きてるの、しぶとい虫!」
 再び新聞紙を振り上げるヌシ。シャリタツは弾かれるように駆け出し、スリッパを履いたヌシの脚に縋り付いた。
「ヌシィ!ヤメテ、オネガイ!」
「はあ!?こんなキモい虫、即駆除一択でしょ!」
「オシュシ、ムシチガウ!オレノオシュシィーー!!」
 シャリタツの懇願を無視したヌシは、今度はシャリタツがしがみついていない方の足を上げて、そして──瀕死のオシュシの真上にずとん、と落とした。
「オシュシーーーー!!」
 オシュシはもう声すら上げなかった。オシュシを踏みつけたその位置のまま、ヌシはスリッパから足を抜き取った。ぷりぷりとハリのあるオシュシの体がそのスリッパの下にあるはずなのに、ペラペラの煎餅のようになって床にへばりついているのだろう、まるで存在感がない。
「ア……アァ……!」
 ヌシの脚にしがみついたまま、オージャの大滝のごとく涙を流すシャリタツ。
「それ、処分しといて」
 ヌシがポイっと投げた丸めた新聞紙──一部が何かの汁で湿っている──がシャリタツの頭に当たっても、シャリタツは放置された片足のスリッパを見つめたまま微動だにしなかった。
30: 名無しさん
「オ、オジュ……オレノ……」
「片方だけあっても仕方ないしこれも捨てて」
 もう一発、オシュシを踏みつけた方ではないスリッパの片割れも投げて寄越され、またシャリタツの頭を打った。
「てか、さっきからオシュシ~って何?その虫、オシュシっていう種類なの?虫仲間?」
 ヌシはシャリタツの色違いをよく知らなかった。前兆でせいぜい十数センチの鮮やかなオレンジ色の体と、背に走る黄色の横線という見た目から、奴隷スシとして使っているシャリタツと同じ生き物だとは思わず、本気で虫に見えていたらしい。ふんっ、と小馬鹿にしたように鼻で笑うヌシに──いよいよ、我慢ならなくなってしまった。
「シャリイィィ!?オシュシ、ムシチガウッ!オシュシハ、オレノ……!」
 この家に連れてこられてから初めてヌシをキッと強く睨み上げ、それから──ついにやってしまった、とシャリタツは思った。奴隷に反発されたヌシの表情は怒りに歪んでいた。
「なに、その口の利き方……もしかしてオシュシって、まさか……ふぅん、そう……」
 シャリタツの様子から「オシュシ」の正体を察したヌシの口元が、ニヤリと残忍な形に曲がる。シャリタツは自らの命運もこれまでと感じた。
31: 名無しさん
「ねえねえ、オシュシどうなったかなぁ」
 しゃがみ込んだヌシはシャリタツの首根っこを掴むとその動きを封じ、オシュシを押しつぶしたスリッパを退けた。
「イヤァ……‼︎」
「わー、グロ!」
 ヌシは決して大柄ではないとはいえ、人間に踏み潰された脆くて柔らかくて小さなオシュシの体は原型を留めていなかった。厚みはほぼなく、幅ばかりが二~三倍ぐらいに押し伸ばされて床にへばりついている。眼球だったと思われる二つの物体はそれぞれ飛び出し、やはり潰れていた。ぴこぴこと可愛らしく動いていたヒレも、ぷりぷりと元気に揺れていたしっぽも、もうどれがどれだかわからない。
「ねえ、何をおいてもやっぱりまずはこれ処分してよ」
「スシィ……!」
 ヌシに動きを封じられているせいで見るも無惨なオシュシから目を逸らすこともできないシャリタツのは、きつく目を閉じた。タマで五日、孵化して五日。たったそれだけの命だった可愛い可愛いオシュシ。まだ擬態の仕方も教えていなかった。一生懸命喉袋を膨らませ、小さな体を水平に伸ばしてオレシュシー!と言う姿はどれだけ感動的だっただろうか。
32: 名無しさん
一度も見ることが叶わなかった。シャリタツの目からボロボロと涙がこぼれ落ちてオシュシだったぺらぺらに降りかかる。孵化した直後にも母の涙を浴び、オミジューと喜んだあの無邪気な声は、もう聞けない。
 シャリタツは床とオシュシの間にヒレを突っ込んでぺらぺらを剥がし取り、両腕の中に抱きしめた。どんな姿になってもオシュシはオシュシだが、あまりにも原型がわからなくなった物体を胸にスシスシ泣いた。
「うわー、よく触るわそんなの。気が済んだら早くゴミ置き場に持っていってね。家の敷地内にそんなの置いとくのいやだし」
「スシィ……!ゴミイヤァ!ゴミチガウゥ……!ネルトコノチカク、ウメテ、アゲル……!ヌシ、オネガイ……!」
 ゴミだなんてとんでもない。オシュシが無感情に何もかもを飲み込むゴミ収集車に、臭いゴミとともに吸い込まれていくなんて耐えられなかった。せめて、シャリタツの寝床である物置の近くに埋めて弔ってやりたい。それを許してくれとヌシに懇願するが、聞き入れられるはずがない。
「いや、だから家の敷地内は絶対あり得ないんだってば。はあ~、仕方ないなぁ」
34: 名無しさん
 ヌシは納戸を開けるとゴミ挟みを取り出し、それを器用に操ってシャリタツのヒレの中からオシュシをさっと奪い取った。
「スシッ!?ヌシ、カエシテ!オシュシ、カエシテ!!」
「あんた、ちゃんと処分しなさそうだから私がやってあげるわ」
 そう言うとヌシはさっさと廊下を歩いていく。
「ヤダアァァァァ!」
 取り乱しながらシャリタツが追いかけると、たどり着いたのは普段シャリタツが必死で掃除しているトイレだった。ヌシは躊躇なく、便器の中にオシュシを放り込んだ。この後を想像して、シャリタツの背筋がスッと冷えた。
「アッ、ダメ、ヤメ」
「はい、さよならー」
 無情にもヌシは水洗レバーを操作してしまった。ゴボボ、ジャー……と聞き慣れた音がする。
「ギュギャアァァァァァ!!オシュシィーーーー!!」
 シャリタツは慌てて便座に飛び乗ったがオシュシの姿はもうどこにもなく、新しく湛えられた便器の溜まり水の水面がゆらゆらと揺れているだけだった。大事な大事な可愛いオシュシがトイレに流されてしまった。オシュシと過ごしたわずかな時間の中で見せてくれた様々な表情が脳裏に浮かんだは消えていく。
35: 名無しさん
あの子が、この家の排水として排出され、あちこちの家の汚水と合流し、汚物にまみれ、そして──。
「シャッ……シャリイィィィィ!!イ゛ヤ゛ア゛ァァァァァ!!オシュシッ、オシュシィーーーー!!」
「ふー、詰まらず綺麗に流れるもんだわ。次はあんたよ」
 ヌシはシャリタツのしっぽを掴んで持ち上げた。オシュシ同様流されるのだろうか。もしそうなれば、たとえ汚水の中だろうと精一杯泳いでオシュシを見つけて、せめてこのヒレの中に抱きとめよう。オシュシ一人だけで逝かせずに済むかもしれない。シャリタツにとっては、今となってはその方が随分と幸福なことに感じられた。
 しかし、ヌシはシャリタツをぶら下げたままトイレを出た。
「ア、アアッ……オシュシッ……」
「しつこいなあ」
 玄関を出たヌシは、シャリタツに寝床として貸してやっている物置へと足を向けた。シャリタツがいつも出入りしている壁の穴とは反対側にある扉を開けて、中を改める。隅の方に、汚いブランケットがぐしゃぐしゃの山になっている。それをゴミ挟みでつまんで持ち上げると、使用済みカイロ、ポケモンフーズのカス、割れた卵の殻がバラバラと散らばった。
36: 名無しさん
「ふーん……あんたをこの環境で使役してる私が言うのもなんだけどさ、よく男作って卵こさえられるよねぇ。お盛んすぎて引くわ」
 ヌシはシャリタツが行きずりのオスの野良シャリタツと情を交わして卵を授かったと考えているらしい。むしろそう考えるのが普通なのだが、シャリタツにとってはとんでもない話だ。この身は清らかなまま。どんなオスにも体を許していない──というか、シャリタツとして体が成熟した後もその機会すら得られなかっただけなのだが。何にせよ、シャリタツは自らの生への執念と溢れ出る母性だけで、誰にも頼ることなくただひとりで可愛いオシュシを授かった処女タツなのだ。
「オス、ナイッ!オレダケデオシュシッ、キテクレター!」
 人間にも伝わる言葉では上手く説明できないシャリタツだったが、ヌシは大体言葉の意味を理解した。しかし、その内容には理解が追いついていない。
「そんなのあり得ないでしょ……バカじゃないの?この尻軽ビッチズシが」
「ヌー!オレ、ビチズシチガウ-!キレイスシー!」
 尾を掴まれたままのビチビチと暴れるシャリタツを手にし、ヌシは物置を出た。
37: 名無しさん
家に戻り、納戸からロープやらなんやらを取り出したヌシがシャリタツを連れてきたのはバスルームだった。シャリタツの尾をロープできつく縛り上げ、浴室乾燥のために取り付けられている物干し竿に結んで逆さ吊りにした。数日前に折れた尾は決して完治しておらず、ズキズキと痛み始めている。
「さて、まずはビッチズシへのお仕置きね」
「ビチズシチガウーー!!」
 まだ侮辱的な呼び方をされることに我慢ならず、吊るされたままのシャリタツはバタバタと暴れる。しかし何も起こらない。
 ヌシは先ほどロープと共に納戸から出してきたチューブ入りの超強力瞬間接着剤の蓋を開け、先端をシャリタツの腹の下部にある秘裂に差し込んだ。
「ズジャッ!?」
 急に陰部に攻撃を与えられ、シャリタツが身をこわばらせる。シャリタツは自身に挿入された異物が何なのかわかっていなかったが、次いで襲ってきた痛みに鳴き声を上げた。
「キュウゥゥッ……!」
 挿入された異物から、何か液体のようなものが流し込まれている感覚。それが敏感な粘膜を刺激して、カッと焼け付くように染みるのだ。
38: 名無しさん
「イタイィ!ナニー!?」
「ビッチズシはここ塞いどかないとビッチ治らないからねー」
 ヌシはシャリタツの陰部に挿入したチューブを握りしめ、秘裂から溢れてくるまで接着剤を絞り出すと、チューブを抜こうと引っ張った。が、既にチューブ先端とシャリタツの孔が引っ付いてしまって抜くことができない。
「あ、抜けないや」
 ぐいっ、ぐいっ、とヌシがチューブを引っ張るたびにシャリタツの体が揺れる。敏感な部分を起点に体が引っ張られ、痛いと同時に変な感覚が陰部中心に広がっていくのを感じた。
「スゥシィ……」
 シャリタツの声色にわずかな快感が含まれていることに気づいたヌシは、思いっきり顔を顰めてチューブから手を離した。
「は……?アソコ引っ付けられて感じてるの……?」
「スシャ……ヌシィ、コレイヤァ……トッテェ……」
 処女タツゆえに今感じたものが何かよくわからないシャリタツは、吊るされたまま下半身をもじもじさせている。
「えっ、キモ」
 真顔でシャリタツを眺めるヌシ。このシャリタツにも飽きてきた頃だったのでそろそろ始末しようとは思っていた。
39: 名無しさん
今日の出来事はちょうどいいきっかけになったので、嬲り方は即席で考えながら折檻からのとどめにしようと考え、だからこその後片付けがしやすい風呂場という選択でここに来たが、これはさっさと始末した方が精神衛生上よさそうだ。
「あんた、ほんとにもういらないや。決めた、今から捨てにいく」
「ヌ……?」
 ヌシは陰部に接着剤のチューブが挿さったままのシャリタツをロープからおろし、ほとんど使っていなかったボールの中に戻す。ポケモンにとって快適な環境が保たれているというボールの中ではなく、あえて隙間風のひどい物置などで寝起きさせられるのも、奴隷スシによくある処遇だった。
 ボールを手に、ヌシはそらとぶタクシーを手配した。行き先はオージャの湖だ。
40: 名無しさん
 目的地に着くと、ヌシはタクシーに待ってもらったまま少し歩く。ドライバーから十分に距離を取ると、スマホロトムを操作してシャリタツを「にがす」コマンドを選択し、ボールを開けた。力なく伸びたシャリタツが姿を現した。
「今まで世話になったわ、スシ。故郷に返してあげる。じゃあね」
 惨めな姿のままのシャリタツを残し、ヌシは踵を返してしまった。
「スシ……?」
 まだ逃がされたことに気づいていないシャリタツは、上半身を起こして陸上での体勢を取ろうとする。と、陰部に挿されたままのチューブが入り口付近の皮膚や粘膜をくっ付けたままさらに奥にめり込もうとし、その痛みと不快感にシャリタツは顔を顰めた。
「ス……シィ……ッ」
 ヌシはすたすたと歩いてどんどんシャリタツから離れていく。そしてようやくシャリタツはヌシがヌシでなくなったことを理解した。この場所はシャリタツというポケモンの本来の生息域という意味では故郷といえるが、奴隷スシにとっては最早ひたすらに危険な場所でしかない。
41: 名無しさん
この場所で生きていく術は、生まれながらに奪われている。奴隷スシがヌシを失うということは、即ちその奴隷スシの死を意味する。野生では生きていけないほど貧弱な技しか残されず、狩りをして食糧を得るなんて夢のまた夢の状態。しかも、このシャリタツは下半身唯一の孔に異物が突っ込まれたまま。接着されているため取り外すことすらできず、通常通りに体を起こすこともできないので移動もままならない。そしてこの場所は生殖だけでなく、排泄するためにも開口していなければならない部位でもある。そこを塞がれ、生命活動を完全に妨害されているのだ。
「ヌ……ヌシィ……マッテェ!ステチャ、ヤァ……!」
 無駄だと知りつつも、呼びかけるしかなかった。ヌシだった人は悲壮感溢れるシャリタツの嘆きも気にもせず、待たせていたそらとぶタクシーに乗り込むと、とうとう立ち去ってしまった。
「ス、スシィ……」
 ずっと空を見上げてヌシを見送っていたシャリタツだが、こんな開けた場所にいては危険だ。下半身を地面につけることができないので、喉袋を膨らませていない「そったすがた」のような体勢でずりずりとヒレと胸だけでもたもたと移動を開始する。
42: 名無しさん
とにかく、茂みでもなんでもいいから身を隠せる場所を探さねばならない。時々胸の下にシャリを巻き込んでしまいそうになるのにヒヤヒヤしながら、前方にシャリタツ一匹ぐらいなら身を潜められそうな木の洞を見つけた。ひとまずあそこに、と全力でヒレを動かすシャリタツを、天は完全に見捨てていた。そもそもシャリタツに神などいない
 ふっと大きな黒い影がシャリタツの真上に落ちてくる。これはまずい、と本能的に思った瞬間、背に鋭い痛みを感じた。
「ズジャァッ!」
 同時にずどんと体重をかけられ、陰部のチューブがめりめりと無理やり体のさらに奥へめり込む。完全に、入ってはいけない場所──おそらく、生まれ出る前のタマを育むための内臓にまでずっぽりと入り込んでしまったひどい痛みに呻きつつ、首だけを回して後方を見たシャリタツの目に、大きなムクホークの鋭い目つきが写った。
 ムクホークは、シャリタツに挿さった接着剤のチューブを、なんだこれ?というように咥え、今度は全力で引っ張った。
「イジャアァァァァァァ!!」
 鉤爪でしっかりと背を押さえられ、しっぽをびたびたと激しく揺り動かすしか抵抗の手段がないシャリタツ。
43: 名無しさん
ムクホークはしつこくチューブを引っ張っていたが、とりあえず食べれるものではないと理解したのか、シャリタツの孔がチューブに引っ付いたまま脱肛のようになった頃にようやく嘴を離し、そして。
「ズッ……!」
 その鋭い嘴を、一思いにシャリタツの頭に突き刺した。大型の鳥ポケモンの力に弱々しいシャリタツの頭蓋骨が敵うはずがなく、嘴はシャリタツの頭を突き破ってあっという間に頭部を破壊した。
 砂嵐がだんだんひどくなるように薄れていく意識の中、シャリタツは思い返していた。今朝までは確かにこのヒレの中にいた、可愛い可愛いオシュシ。絶望的な暮らしの中でシャリタツが唯一得た宝物。生きる希望。それが文字通りあっという間に奪われて、あろうことか下水に流され、シャリタツ自身も筆舌に尽くし難い辱めを受けて。

 結局、自分は何のために生きてきたんだったか。

 意識が途切れる最後の瞬間、シャリタツの脳裏に浮かんだ笑顔は、愛おしいオシュシの──ではなく、ヌシのそれだった。

おしまい

44: 名無しさんそうだねx12
ゆ虐板でやれ

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